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大阪高等裁判所 昭和43年(行ス)1号 決定 1968年6月15日

抗告人(相手方) 茨木市長

相手方(申立人) 斎藤多門

主文

原決定を取り消す。

本件申立を却下する。

本件申立費用並びに抗告費用は相手方の負担とする。

理由

抗告人は、主文同旨の裁判を求め、その理由とするところは別紙「準備書面」に記載したとおりである。

(当裁判所の判断)

一、相手方が昭和三八年七月当時茨木市技術吏員の職にあつたこと、相手方に対する任免権者であつた抗告人が昭和三八年七月三一日付で相手方を懲戒免職処分にしたこと及び相手方が不利益処分審査請求の手続を経たうえ抗告人を被告として昭和三九年一一月四日右免職処分の取消しを求める訴を原裁判所に提起し、これが現に原裁判所に係属していることは記録上明らかである。

二、そこで、まず、相手方につき、右処分の執行により生ずる回復の困難な損害を避けるためその執行を停止すべき緊急の必要があるかどうかの点について判断する。

相手方はこの点につき、本件免職処分の当時相手方は大阪府衛星都市連合職員労働組合(衛都連)の書記長として組合専従者の地位にあつたので衛都連から給与を受けていたが、昭和四〇年七月末日をもつて書記長を辞任し右の給与をうけられないことになつた。そこで本来なら茨木市の職員に復帰して茨木市から給与ををうけるはずのところ、本件免職処分の結果この給与もうけることができないのであつて、このためほかに財産のない相手方としては生活上回復困難な損害を避けるため、右免職処分の執行停止を求める緊急の必要がある旨主張するところ、疏甲第三二号証の一ないし四、第三五号証の一、二、乙三号証の二、第五号証、第六号証の一、二、原審における相手方審尋の結果によれば、

(一)  相手方は衛都連の書記長を辞任したことにより衛都連からの給与を受けられなくなつたが、その後衛都連規約二八条の定める組合活動犠牲者として衛都連救援規程による救援の対象となり、その生活資金として昭和四〇年九月に金五万二、六九〇円、同年一〇月から昭和四一年九月まで毎月金五万六、六二〇円、同年一〇月からは毎月金六万二、一六〇円の給料相当額の支給を受けてきており、この額は概ね相手方が原職復帰すれば受けることのできる給与の額であり、なお、昭和四〇年一二月以降昭和四二年三月までの間三月、六月及び一二月に期末年度末手当として合計金四一万九、六三〇円の支給を受け、その後もこれを受ける資格を有するものであること、

(二)  衛都連は、その組合員が組合活動に関連して解職処分をうけたときは前記救援規程等に基づいてこれを救援することを要し、被救援者が解職処分取消等の訴訟において勝訴して救援期間の給与その他の費用が支払われたときは、救援を受けた額を限度としてこれを返還しなければならないが、敗訴によつて復職の見込が失われた場合は返還することを要せず、別に本人が解職当時に当局から受けるはずであつた普通退職金の倍額に五〇万円を加えた金額が支給されるほか、解職処分発令のときに退職一時金名義で金五万円が支給されること、

(三)  右救援のための資金として衛都連傘下の組合員から一人当り年額金一、〇〇〇円が拠出され、これにつき特別会計がもうけられているが、昭和四一年度においては救援資金の収入合計金二、七七五万四、五六九円に対し支出合計は金九六〇万八、三二二円で差引残額金一、八一四万六、二七四円が昭和四二年度へ繰越され、さらに昭和四二年度の予算案によると、救援資金は右繰越金を含めて金三、六六二万九、八五六円が計上されており、資金的にも十分余裕のあること、

などの事実が疎明されるのであつて、これらの事実と前記救援規程第一条により明らかな右救援金の支給は衛都連加盟の組合員が組合活動を行つたためにうけた損害を補償することにより組合の団結を強化することを目的とするものであることとをあわせ考えると、相手方が衛都連から支給されている金員は、救援金なる名称が用いられてはいるが、たんなる貸付金やまたは任意的一時的な援助にすぎないものではなく、相手方の必要限度の生活の資としての安定性をそなえているものと認めざるを得ず、しかも前述した救援金の性格ならびに資金の余裕等の点からみて、相手方に対する叙上衛都連の金銭上の支援が合理的理由なくして将来打切られるようなことがあるとはとうてい考えられない。そして、右金員が相手方が本件免職処分をうけた当時の給与の額にひつてきするものである点からすれば、本件免職処分の執行を停止して給与を支給しなければ相手方がその生活を維持できないほど経済的に差し迫つた状態にあるものとは認められず、そのほか本件処分の執行により相手方につき回復困難な損害の発生を避けるためこれを停止すべき緊急の必要があることについては他に特段の主張および疎明がない。

三、そうすると、相手方の本件執行停止の申立はその余の点について判断するまでもなく理由のないことが明らかであつて、これを認容した原決定は失当たるを免れない。

よつて、原決定を取消し、本件申立を却下すべく、申立費用及び抗告費用は相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 小石寿夫 宮崎福二 舘忠彦)

別紙「準備書面」省略

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